ヴェスパー・マティーニ

ヴェスパー (Vesper) あるいはヴェスパー・マティーニ (Vesper Martini) は、 ジン をベースとする カクテル 。ジンと ウォッカ 、それにキナ・リレ(Kina Lillet、現名: リレ・ブラン)と 氷 を入れ、 シェイク して作る カクテル の名称。 マティーニ の一種である。小説『 007 カジノ・ロワイヤル 』で イアン・フレミング が考案し、2006年に公開された同名の映画でも原作を再現する形で登場した。

概要

名称は、小説家 イアン・フレミング の ジェームズ・ボンド 連作小説中、第一作目の『 007 カジノ・ロワイヤル 』(1953年)に由来し、 ジェイムズ・ボンド の 恋人 役( ボンドガール )として登場するヴェスパー・リンドの名前から付けられた。

一般的なマティーニは、ジンとベルモットに氷を入れてバースプーンで ステア し、 オリーブ の実を添え、場合によっては レモン を飾るが、原作中のヴェスパーは、イギリス産 ゴードンズ のジンと、ロシア産(またはポーランド産)ウォッカの両方を入れ、 ベルモット の代わりに フランス 南西部 ボルドー 産 アペリティフ ワイン のキナ・リレを、またオリーブの実の代わりにレモンの皮を入れるのが特徴。

原作でボンドはレシピを細かく指定して注文したあと、 フェリックス・ライター が、ジャガイモから作ったウォッカを用いるよりも、 穀物 のウォッカを使った方がおいしくなり、またロシア産、あるいはポーランド産ウォッカがよいとボンドに提言した。

なお、現在キナ・リレは製造されておらず、通常は代わりにリレ社 ( fr:Lillet) の後継銘柄、リレ・ブランや「キナ・ラエロ・ドール」を用いる。日本国内ではサントリーがリレ・ブランを代理販売していたが、2005年に取り扱い中止となった。ただし並行輸入などで小規模ながら流通はあるので2014年現在でも入手は可能である。

小説や映画で人気が出たため、現在ではマティーニの定番の一つとなっているが、ボンドはこれ以外にさまざまなマティーニを注文しているため、ヴェスパーのみが「ボンド・マティーニ」というわけではない。たとえばボンドの有名な台詞(せりふ) " Vodka Martini. Shaken, not stirred". (「 ウォッカ・マティーニ を。ステアせずにシェィクで」)は、ヴェスパーとは別物を指す。2006年に公開された映画『 007 カジノ・ロワイヤル 』の人気でリレ・ブランに注文が殺到して品薄となり、入手が困難となっているという話もささやかれている。

作家の 東理夫 は 英 米 仏 と ソ連 が対立する冷戦時代に、もしかしたらフレミングが「世界平和の願いをこめ」て発案したのかもしれない、と推理している。

レシピ

概要

  • ドライ・ジン = 90ml
  • ウォッカ = 30ml
  • キナ・リレ (リレ・ブラン) = 15ml
  • レモン の 果皮 (飾り用)

詳細

原作『007 カジノ・ロワイヤル』では、ゴードンズのジンを3 オンス 、ウォッカを一オンス、キナ・リレ半オンスに氷を加え、単に混ぜるだけではなく、氷で冷たくなるまでよくシェイクし、大きめに薄く削いだレモンの皮を入れる。

一般的な作り方は上述したように、キナ・リレの代わりにリレ・ブランを用いてシェイクし、深めのシャンパン・グラスに注ぎ、 ラセン 状に剥(む)いたレモンの皮を入れる。

リレ・ブランを製造するリレ社は、従業員七名という小さな会社である(2006年12月現在)ため、出荷量に限度があり、入手できない場合はベルモットで代用せざるを得ないが、当然、味わいは異なる。また、キナ・リレを用いたヴェスパーの苦みを再現する試みとして、リレ・ブランを用いて キニーネ 粉末を加えるレシピもある。

文献

  • イアン・フレミング( 井上一夫 訳)『カジノ・ロワイヤル 秘密情報部〇〇七号』( 創元推理文庫 )東京創元新社、1963年6月、 ISBN 4488138012
  • イアン・フレミング(井上一夫訳)『007 / カジノ・ロワイヤル』(新版。創元推理文庫) 東京創元社 、2006年6月、 ISBN 4488138063